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お蕎麦の思い出

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「いらっしゃいませ」 私は40年以上、料理に携わってきました。 尊敬すべき師匠とたくさんのお客様に「ご縁」をいただき、多くのことを学びました。 そして自分が食べてこれは「美味しい」と思うものだけを、あなただけに召し上がっていただきたい。 自分の作品を通して少しでも「倖せ」を共有出来たらとの信念で毎日「料理」しております。

中高生の時は家業が蕎麦屋だったので学校から帰ってきてからとか土曜日曜は否応なしに店の手伝いをしていた。

蕎麦やうどんを湯がいたり、天麩羅を揚げたり、丼を作ったり、出前、洗い物、店を閉めてからのお金の計算等々、ほぼ何でもしていた。

家にいると手伝いをさせられるのでクラブの試合等で出かけれる時は嬉しかった。
そんな時でも家業が食べ物屋で良かったなあと思ったのは毎日店のメニューを好きなだけ食べられたことだ。

天丼、カツ丼、他人丼、鰻丼、親子丼、木の葉丼にエビフライ、トンカツ、ビーフカツ、カツカレーにざるそば、天ぷらそば、きつねうどん、カレーうどん、山かけそば、にしんそば等々、100種類程ある店のメニューのどれを食べても両親は何も言わなかった。


高校卒業後、料理の世界に入り厳しい修行を重ねた。

それから何十年も経た今も美味しさの基準は、中高生の時に食べた街の小さなお蕎麦屋の味です。

今はこんなお店は少なくなった。高級店かチェーン店の二極化が進んでしまった。
その時は手打ちそばではなかったが製麺所から届けられる生そばはとても腰があり風味があり美味しかった。


その時の蕎麦の味が忘れられず 50 歳を過ぎて手打ちそばを習い始めた。
趣味で習うのではなく京都の老舗のお蕎麦屋さんで本格的にプロとして一から学んだ。

社長は手打ちそばで国の現代の名工を受賞するほどの名人だ。

その人の手にかかると蕎麦粉に命が吹き込まれて見事な手打ちそばが誕生する。

特に 1.2mm の厚さにされた麺帯はまるで絹のように広げられ美しく風に舞った。

何と素晴らしい手捌きであった。
そば粉という素朴な素材をこね、打ち、切り、茹でる。シンプルな工程を経て何とも美味い蕎麦が出来る。
でもすぐに現実に引き戻された。

これを今から自分が打たなければならない。

社長の厳しい試験に合格しなければお客様にお出しすることは許されない。

エライ世界に足を踏み込んでしまったものだと、一瞬後悔したが、もう後戻りは出来ない。最初に習うのは手打ちうどん。

これは一回の試験で合格した。

次は本命の手打ちそばだ。木鉢で水回し、くくり、練り、手延し、角出し、仮のし、本延し、たたみ、切りの工程があり、どこも難しく手が抜けない。
特に麵棒を使っての本延しと蕎麦切り包丁を使っての切りはやってもやってもまったく上達しなかった。

気がつけば120kgの蕎麦粉を練習に費やしていた。

毎日不完全な蕎麦が出来たが、持ち帰りご近所に配っていた。(ご近所さんは綺麗ではなくても手打ちそばを食べられたので喜んでいた様です。一年後に試験に合格した時はもう食べれないのかと残念がられていたそうです)
3 回目の試験で合格するまで約一年、一生のうちでこれだけ難しいと思った試験はありませんでした。ここから初めてお客様に自分の打った蕎麦を提供することが出来るのですが、ここからがまた緊張の連続。

老舗の蕎麦屋なので、そば通の方が多い。そのお客さんが自分の打った蕎麦に納得してくれるのだろうか?クレームがついたらどうしようと冷や冷やでした。


今でも完全に満足のいくそば打ちは毎回出来るものではない。

それほどそば打ちは奥が深い。

そこがまたそば打ちの魅力だ。

私は一生懸命打ち上げたお蕎麦を普通に召し上がっていただきたい。
町場に普通にあった、居心地がよくて楽しくて一人でも家族でもゆっくりできる。

そんなお蕎麦屋さんで食べるようなお蕎麦をお家で食べてもらうのが私の理想です。

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「いらっしゃいませ」 私は40年以上、料理に携わってきました。 尊敬すべき師匠とたくさんのお客様に「ご縁」をいただき、多くのことを学びました。 そして自分が食べてこれは「美味しい」と思うものだけを、あなただけに召し上がっていただきたい。 自分の作品を通して少しでも「倖せ」を共有出来たらとの信念で毎日「料理」しております。

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